樹脂の切削加工について~種類や加工時の注意点
ものづくりにおいて、私たちは様々な素材を使って製品を作り上げています。その中でも、軽くて加工しやすい**樹脂(プラスチック)**は、私たちの身の回りにある多くの製品に使われています。樹脂を加工する方法はいくつかありますが、今回は「切削加工」という方法に焦点を当ててご紹介します。切削加工は、例えるなら彫刻のように、材料の塊から不要な部分を削り取って形を作る技術です。この加工方法がどんなもので、どんな種類の樹脂が使われ、どんなことに気をつけたら良いのかを、分かりやすく解説していきます。
1. 樹脂切削加工とは:その本質と金属加工との違い
樹脂の切削加工は、金属を加工する方法と似ているようで、実は大きな違いがあります。この違いを理解することが、樹脂加工を成功させるカギとなります。
1.1. 塊から削り出す加工:材料へのアプローチ
金属加工には、材料を叩いたり曲げたりして形を変える「塑性加工」という方法があります。これは、粘土細工のように材料を形作るイメージです。一方、切削加工は、材料の塊から削り出して形を作る方法です。これはまるで、大きな氷の塊から氷像を彫り出すようなものです。樹脂の切削加工も、この「削り出す」という方法で、様々な複雑な形を生み出します。
1.2. 樹脂切削加工のメリット:製品づくりでの強み
樹脂の切削加工には、製品づくりにおいていくつかの大きなメリットがあります。
- 色々な形が作れる: 複雑な形や、細かい部分まで精密に作ることができます。例えば、金型を作るのが難しいような、少しだけ形が違う部品をたくさん作りたい場合にも向いています。
- 試作品が早く作れる: 大量の製品を作るための「金型」という型を作る必要がないため、新しい製品の試作品を素早く、そして比較的安く作ることができます。
- 少量生産に強い: 必要な数だけ作ることができるので、たくさんの量はいらないけれど、特別な部品が欲しいという場合にとても便利です。
2. 身近な樹脂から特別な樹脂まで:それぞれの特徴
樹脂には本当にたくさんの種類があり、それぞれ得意なことや苦手なことがあります。製品の目的に合わせて、最適な樹脂を選ぶことが大切です。
2.1. 普段使いの樹脂:暮らしを支える素材
- ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP): スーパーの袋や食品容器など、身近なところで使われている、軽くて加工しやすい樹脂です。
- 塩化ビニル(PVC): パイプやホース、建材などに使われ、加工しやすく、丈夫です。
2.2. ちょっと特別な樹脂:丈夫さや熱に強い素材
- アクリル: 透明でガラスのように見えますが、ガラスよりも軽くて割れにくいのが特徴です。看板や水槽、照明カバーなどによく使われます。
- ポリカーボネート(PC): 透明で非常に丈夫な樹脂で、防弾ガラスにも使われるほどです。スマートフォンのカバーや車のヘッドライトなどにも使われています。
- ポリアセタール(POM): 摩擦に強く、なめらかに動く部品を作るのに適しています。歯車や滑車など、機械の動く部分によく使われます。
2.3. すごく特別な樹脂:厳しい条件に耐える素材
- PEEK(ピーク): 非常に熱に強く、薬品にも強い特別な樹脂です。医療機器や航空機の部品など、とても厳しい環境で使われるものに利用されます。
- PTFE(フッ素樹脂): テフロンという名前でよく知られています。非常に滑りやすく、焦げ付きにくい性質があります。フライパンの表面加工や、摩擦を減らしたい部品などに使われます。
3. 樹脂の切削加工で気をつけたいこと
樹脂の切削加工はメリットが多い反面、樹脂ならではの注意点もあります。これを理解しておくことで、より良い製品を作ることができます。
3.1. 材料の性格を理解する:熱や水の影響
樹脂は、金属と比べて熱に敏感だったり、水を吸う性質があったりします。
- 熱に弱い: 切削加工する際に発生する摩擦熱で、樹脂が溶けてしまったり、焦げてしまったりすることがあります。そのため、熱を発生させにくいように、ゆっくりと削ったり、冷やしながら加工したりする工夫が必要です。
- 水を吸う: 一部の樹脂は水を吸うと膨らんだり、性質が変わったりすることがあります。加工の前にしっかり乾燥させたり、加工後の管理に気をつけたりする必要があります。
- 形の変化: 加工している間に、材料の中に隠れていた力が解放されて、わずかに形が変わってしまうこともあります。これを「応力緩和」と言います。
3.2. 削る道具と方法:精密に仕上げるために
樹脂を削るための道具(刃物)や、削り方も非常に重要です。
- バリ(ささくれ)の発生: 樹脂は柔らかいため、削った時に端っこにバリ(ささくれ)ができやすいです。これをきれいに取り除くには、適切な刃物や加工方法が必要です。
- 表面の仕上がり: 削り方によっては、表面がざらざらになったり、光沢が出なかったりすることがあります。製品に求められる表面の滑らかさに合わせて、加工条件を調整する必要があります。
- 寸法を正確に出す: 特に小さな部品や、他の部品と組み合わせる部品では、寸法の正確さが命です。加工中の熱による膨張なども考慮して、緻密な計算と調整が求められます。
3.3. 金型と切削加工、どちらを選ぶか?
製品を大量に作る場合は、「金型」を使った加工が効率的で低コストになります。しかし、少量生産や複雑な形、試作品の場合は、金型を作るよりも切削加工の方が高品質で効率的です。それぞれのメリット・デメリットをよく比較して、最適な方法を選ぶことが大切です。
4. 樹脂切削加工が活躍する場所とこれからの展望
樹脂の切削加工は、今や様々な分野で不可欠な技術となっています。
- 医療の世界: 人の体に触れる医療機器の部品や、分析装置の精密な部品など、衛生面や安全性が特に求められる場所で活躍しています。
- 自動車・航空機: 軽くすることで燃費を良くしたり、複雑な形状で部品の性能を高めたりするために、多くの樹脂部品が使われています。
- 電子機器: スマートフォンやパソコンの中の小さな部品、あるいは半導体を作る装置の部品など、非常に高い精度が求められる部分で活躍しています。
これからも、新しい高性能な樹脂が登場したり、加工する機械や技術が進化したりすることで、樹脂切削加工はさらに私たちの生活を豊かにする製品を生み出し続けるでしょう。
まとめ
樹脂の切削加工は、多種多様な樹脂を使いこなし、まるで彫刻のように精密な形を作り出す技術です。金属加工とは異なる性質を持つため、材料の種類や加工時の熱、工具の使い方など、いくつかの注意点があります。しかし、それらを理解し、適切な方法で加工を行うことで、高品質でコストを抑えた製品を効率的に作ることができます。